第5世代移動通信システム(5G)が拓く新たな世界 〜 イマジネーションの域にあるものを現実に
毎年発表される、iPhoneの新製品。スマートフォンに搭載される技術が成熟してきたこともあって、以前に比べて驚くような進化は見られなくなりましたが、それでも毎年、この発表会を楽しみにしている方も多いことと思います。私もその一人で、いつも発表会が近づくと「今年はどんなサプライズがあるだろう」とわくわくしてきます。(私はiPhoneユーザではありませんが。)
振り返れば、2007年1月9日、サンフランシスコにあるMoscone Centerで開催されたMacworld Conference & Expo 2007の基調講演で、スティーブ・ジョブズ氏が
”Today, Apple is going to reinvent the phone.”
と語り、聴衆から大喝采を浴びながらiPhoneを発表してから10年余り。
その言葉通り、iPhoneを始めとするスマートフォンは瞬く間に世界中に普及しました。
通勤電車に乗っていても、周りを見回すとほとんどの人がスマートフォンを手にしています。
日本におけるスマートフォンの所有率は56.8%に達しています。(2016年時点、総務省「平成29年版情報通信白書」より)
恥ずかしい話ですが、iPhoneが発表されたとき、私は「これは日本では受け入れられないだろう」と感じました。
当時は携帯電話、いわゆる「ガラケー」の全盛時代で、ガラケーでメールをやり取りするのが一般的な利用方法でした。中でも若者(特に女子高生)はガラケーのテンキーを使って猛烈なスピードで文字を入力していて、このような使い方に慣れた人にはiPhoneのようなタッチパネルを使った文字入力は受け入れられないだろうと感じたのです。
ところが、女子高生は瞬く間にタッチパネルを使ったフリック入力に精通し、ガラケーにも劣らないスピードで文字を入力するようになりました。女子高生、恐るべし、です。
初代iPhoneから最新機種まで、進化した機能はたくさんありますが、そのうちの1つがカメラ機能です。
観光地に行ってもデジカメで写真を撮っている人は数えるほどになり、ほとんどの人がスマートフォンを使っています。
画素数の向上だけでなく、最近ではデュアルカメラ、さらにはトリプルカメラを搭載し、これらを組み合わせることで一眼レフカメラのように背景をぼかした写真や暗い所でも明るい写真が撮れる機能、光学ズーム機能などを搭載する機種も現れてきました。撮影した写真をそのままSNSにアップロードできることも、スマートフォンで写真を撮るメリットです。
携帯電話に初めてカメラを搭載したのは2000年11月にJ-Phoneから発売されたシャープ製の端末です。画素数は11万画素に過ぎませんでしたが、携帯電話で写真を撮ってメールに添付して送信する、いわゆる「写メール」は爆発的な人気となりました。
その頃、私が勤めていた電機会社でも携帯電話用の固体撮像素子(CCD)を開発していました。
このCCDは、高画素化には不利だが小型化や省電力化には有利という構造を持っていました。携帯電話に搭載する上で、小型化や省電力化が可能というのは大きなメリットで、一部の携帯電話にも採用されました。
当時、このCCDの開発責任者と話をする機会がありましたが、この時に彼が語った言葉は今でもよく覚えています。
「このCCDの高画素化は難しいが、携帯電話のカメラの画素数は100万画素を超えることはない。なぜなら画素数が大きくなるとファイルサイズが大きくなり、携帯電話の通信回線で送れなくなるから。」
ところが実際は、ご存じの通り携帯電話やスマートフォンに搭載されるカメラの高画素化が進み、新しいiPhoneには1200万画素のカメラが搭載されています。また、中には4000万画素のカメラを搭載している機種も登場しています。
先ほど紹介した開発責任者の方は決して先の読めない方ではありませんが、開発者は得てして、自分が担当している製品の長所のみに目が向いてしまい、短所を冷静に判断できず、世の中のトレンドを見誤ってしまうことがあります。私も技術者だった頃にはそのような経験を多々繰り返してきました。
[スマートフォン搭載カメラの画素数とメモリ容量の推移(iPhoneの事例)]
携帯電話の通信方式は、初代iPhone時代の2Gから3G、4G、そして2020年には5G(第5世代移動通信システム)の商用化も予定されています。
5Gでは10Gbpsという高速通信が実現されるだけでなく、同時に接続できる端末の数が100倍以上、そしてレイテンシー(接続遅延)が10分の1以下になると言われています。(下表[4Gと5Gの比較]参照)
[4Gと5Gの比較]
このことから、IoTの進展や遠隔医療、自動運転車の実現などに期待が寄せられています。
また、これを自動翻訳に応用すると、クラウド上に巨大な翻訳メモリを持たせ、これに瞬時にアクセスすることによって、コンテキストまで理解した自動翻訳が実現され、翻訳精度や速度の飛躍的な向上が期待できます。
昨今の日本は、台風21号、関西や北海道を襲った巨大地震など、繰り返し自然災害に見舞われています。
ニュースを見ていると、外国人観光客が空港や駅などで足止めされて、途方に暮れている様子が放映されています。彼らが一番不安に思っているのは、母国語での情報が入手できないことだそうです。
5Gによって自動翻訳機能が進化すれば、こういった不安の解消にもつながるのではないでしょうか。
私が子供の頃、「スーパージェッター」というアニメ番組があり、毎週胸を躍らせてテレビにかじりついていました。(放送は1965年~66年でしたので、年がばれますね。)
特に心に残っているのは、ジェッターが腕時計に向かって「流星号、応答せよ!」と呼びかけると無人の「流星号(エアカー)」がやってくるというシーンです。当時は夢物語でしたが、今では技術的には実現可能です。
これから5Gが普及し始めると、一体どんな商品やサービスが実現されるのかと思うと、胸が躍りますね。まさに技術には無限の可能性が秘められていると感じます。
最後に、次の言葉を引用して締めくくります。
What is now proved was once imagined.
(今、証明されているものも、かつてはイマジネーションの域にあった。)
– William Blake (English Poet and artist, 1757 – 1827)