【コラム】中国特許調査・翻訳動向
第1回:中国特許調査・翻訳の課題
世界知的所有権機関(WIPO)が発表した「世界知的所有権統計」によると、2012年の世界の特許出願は、受け付け国・地域当局別件数で中国が61万2,777件となり、2年連続で1位となった。世界全体の特許出願件数は前年比9.2%増の約235万件だったのに対し、中国は前年比24.0%増加した。
特許出願数の増加とともに、中国での知的財産関連訴訟件数も増加しており、特許庁が発表した2013年版「特許行政年次報告書」によると、2011年に7,819件と5年間で2.4倍に急増した。
こういった背景のもと、日本企業にとって中国特許への対策はますます重要になるが、特許の元データの信頼性が低い、特許制度も進化途中であるといったことから、不確定要素が多く、中国特許の調査・翻訳に対してどう取り組むべきか判断しかねている状態の企業も多い。一方で、先進的な企業では中国特許調査・翻訳について自社なりにさまざまな工夫をしながら取り組まれており、市場のフェーズでいうと、「アーリーアダプター」のフェーズであるといえるだろう。
本コラムでは、中国特許調査ビジネスでリーティングプレイヤーであるプロパティ社と、中国特許翻訳ビジネスでリーディングプレイヤーである高電社がもつ中国特許調査・翻訳市場の最先端の動向をもとに、中国でビジネスを展開する日本企業が今後中国特許に対してどうアクションをとっていくべきかについての示唆を提供していきたい。
第1回では、中国特許調査・翻訳に関する課題の全体像を整理する。中国特許のデータベースについては、SIPO(State Intellectual Property Office)が提供するデータベースやIPPH(Intellectual Property Publishing House Co., Ltd.)が提供するCNIPR(China Intellectual Property Right Net)などが有名であり、SIPOは2次データ、CNIPRは3次データを扱っている関係上、CNIPRの方がデータの信頼性が高いと言われている。技術用語の標準化が難しく、かつ、特許数が膨大であり、とある日本企業の中国特許調査で、日本の基準から特許数が300件程度だと想定しての依頼を受けて、調べてみたところ、3万件の特許が見つかり、関連特許まで含めると17万件あった。データの信頼性を確認しながらこの膨大な特許を調査するのは確かに至難の技である。
翻訳については、調査と連動した翻訳、つまり、中国語→日本語の翻訳と、中国に出願する際の日本語→中国語の翻訳がある。翻訳には人力翻訳と機械翻訳があり、これらを使い分けて翻訳することが多いが、人力翻訳、機械翻訳それぞれに利点・欠点があり、機械翻訳にもそれぞれのツールによる利点・欠点があり、どういうふうに組み合わせるかは各社のノウハウになってくる。中国特許翻訳での課題は大きくは以下である。
● 調査と連動した機械翻訳は、翻訳の精度だけでなく元データ自体の信頼性まで確認する必要がある。
● 人力で翻訳したものは、用語にばらつきがあり、どの用語を使うのが正しいのかは翻訳者のレベルに頼るしかない。
● 機械翻訳は、精度100%のツールは存在しないため、出願の前の最終翻訳には使えない。
● 機械翻訳も、分野、ツールによっては訳質のばらつき、翻訳もれがある。
第2回以降では、さまざまな課題に対し、どう対策していくかについて一つ一つ解説していく。
執筆者: 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授 岩本 隆